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東京地方裁判所 昭和55年(特わ)3313号 判決 1981年4月06日

裁判所書記官

物井昭三

本店所在地

東京都西多摩郡日の出町大字平井一三一六番地

有限会社協和木工所

(右代表者代表取締役齎藤延夫)

本籍

東京都秋川市引田三八五番地

住居

右同所同番地

会社役員

齎藤延夫

昭和九年一月一一日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官江川功出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人有限会社協和木工所を罰金一〇〇〇万円に

被告人齎藤延夫を懲役一〇月に

それぞれ処する。

被告人齎藤延夫に対しこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人有限会社協和木工所(以下「被告会社」という。)は、東京都西多摩郡日の出町大字平井一三一六番地に本店を置き、葬具の製造・販売を目的とする資本金三〇〇〇万円(昭和五四年五月三一日以前は三〇〇万円)の有限会社であり、被告人齎藤延夫は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人齎藤は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、期末たな卸の一部除外、架空仕入の計上などの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五一年一〇月一日から昭和五二年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四〇〇八万三六一六円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五二年一一月三〇日、東京都青梅市東青梅四丁目一三番四号所在の所轄青梅税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一九六四万一一〇七円でこれに対する法人税額が七〇一万六四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五六年押第一三三号の2)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一五一九万三二〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)と右申告税額との差額八一七万六八〇〇円を免れ、

第二  昭和五二年一〇月一日から昭和五三年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五九三〇万一六〇六円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五三年一一月三〇日、前記青梅税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二八九四万六三四七円でこれに対する法人税額が一〇七三万八四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の3)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額二二八八万〇四〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)と右申告税額との差額一二一四万二〇〇〇円を免れ、

第三  昭和五三年一〇月一日から昭和五四年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が八四一四万四六九六円(別紙(三)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五四年一一月三〇日、前記青梅税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五二三六万〇二四八円でこれに対する法人税額が一九五三万六〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の4)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額三二二三万七五〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)と右申告税額との差額一二七〇万一五〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人齎藤延夫の当公判廷における供述

一  被告人齎藤延夫の検察官に対する供述調書五通

一  被告人齎藤延夫外一名作成の上申書二通

一  井上嚴尹及び橋本昭の検察官に対する各供述調書

一  検察官作成の事業税認定損に関する捜査報告書

一  収税官吏作成の有限会社協和木工所のたな卸及び限度超過寄付金に関する各調査報告書各一通

一  収税官吏作成の売上高、架空仕入、寄付金、消耗品費、減価償却費、支払手数料、預金(雑収入)及び価格変動準備金繰入(戻入)に関する各調査書各一通

一  東京都青梅都税事務所長作成の税の納付状況照会に対する回答書

一  青梅税務署長作成の証明書

一  東京法務局五日市出張所登記官作成の登記簿謄本

一  押収してある法人税確定申告書三袋(昭和五六年押第一三三号の2ないし4)

なお、判示第三(昭和五四年九月期)の事実のうち、別紙(三)修正損益計算書勘定科目番号<22>の支払手数料二〇〇万円につき、検察官は、当初これを損金に算入する処理をして起訴したものの、公判途中で右支払手数料はいわゆる脱税経費であって損金には算入できないとの見解を表明して訴因の変更請求に及び、当裁判所もこれを許可したものであるところ、関係証拠によれば、右支払手数料は、被告会社が取引先と通謀のうえ架空仕入を計上するに際し、右取引先において名義貸、手形の裏書、手形取立のための仮名口座の設定、納品書・領収書等の作成などに協力したことに対し、その手数料として支払われたもので純然たる脱税のための経費であると認められる。このような支出は、収益を得るために必要なものではなく、所得を秘匿するためのものにすぎないから、これを損金に算入すべきではない。そこで、貸方に同額を計上することとした(別紙(三)修正損益計算書勘定科目番号<43>参照)。

(法令の適用)

被告人齎藤延夫の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一〇月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。さらに、被告人齎藤延夫の判示各所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、法人税法一六四条一項により判示各罪につき同法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で被告会社を罰金一〇〇〇万円に処することとする。

(量刑の事情)

本件は、葬具の製造・販売業では全国でもトップクラスにある被告会社において三事業年度にわたり合計三三〇〇万円余りの法人税を免れたというもので、動機には格別斟酌すべき点もなく、取引先に手数料を払って通謀のうえ架空仕入を計上するなどしていて犯行の態様も悪質であり、免れた額も少なくないばかりか、本件以前にも脱税していることなどにかんがみると、被告会社及び被告人の刑責は軽視することができない。

しかしながら他方、ほ脱率は四〇ないし五〇パーセント前後と比較的低いこと、被告会社は犯行後経理体制を整備したほか各年度について修正申告し、本税・延滞税・重加算税などの相当部分を既に納付していること、被告人にはこれまでに前科・前歴がないことなど被告会社及び被告人に有利な事情もみられ、その他被告人の反省の程度、家庭の事情等本件にあらわれた一切の事情を総合考慮して主文のとおり量刑する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小瀬保郎 裁判官 久保眞人 裁判官 川口政明)

別紙(一)

修正損益計算書

有限会社 協和木工所

自 昭和51年10月1日

至 昭和52年9月30日

<省略>

別紙(二)

修正損益計算書

有限会社 協和木工所

自 昭和52年10月1日

至 昭和53年9月30日

<省略>

別紙(三)

修正損益計算書

有限会社 協和木工所

自 昭和53年10月1日

至 昭和54年9月30日

<省略>

別紙(四)

税額計算書

<省略>

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